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歴史人物 1
D-501 坪井信道

D-501 坪井信道賛 ヒポクラテス像

学びのこころ掲載作品

 坪井信道 1
 坪井信道 2
 坪井信道 3
 坪井信道 4
作家名
D-501 坪井信道つぼい しんどう
作品名
ヒポクラテス像 坪井信道賛
価格
1,900,000円(税込)
作品詳細
掛け軸 絹本彩色 金襴緞子裂 合箱
  本紙寸法32.7×115.5
全体寸法(胴幅)42.6×198.2㎝
作家略歴

坪井信道
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コンディション他

緒方富雄氏による『日本におけるヒポクラテス賛美』(昭和46年)には、確認される日本最初のヒポクラテス画賛として、ヒポクラテス像を洋風画家石川大浪が描き、賛を蘭学者大槻玄沢が付した寛政11年(1799)の年紀のある作品が紹介されている。このようなヒポクラテスを賛美する肖像画が描かれるようになるのは、安永3年(1774)、杉田玄白、前野良沢らによって日本最初の本格的な西洋医学の翻訳書『解体新書』が刊行されたことを契機に、西洋医学の知識が盛んに導入されはじめたころと重なると推論して間違いないであろう。同書には、他に坪井信道、緒方洪庵、小森桃塢、宇田川榕菴、辻蘭室、小石元瑞、杉田成卿ら蘭学興隆期を代表する蘭学者が賛をし、あるいは画を描いたいくつものヒポクラテス画賛が紹介されている。彼らは、西洋の文献から科学的、実証主義的医学知識を吸収するだけでなく、医学の祖、医学の父としてヒポクラテスを鑽仰し、ヒポクラテスから医者としての理想の姿を学ぼうとしていたことを、これらのヒポクラテス画賛から知ることができる。

西方有美人 西方美人有り
鶴髪皎如銀 鶴髪皎として銀の如し
隻眼睨寰宇 隻眼寰宇(かんう)を睨む
片言驚鬼神 片言鬼神を驚かす
高天仁不極 高天の仁極まらず
大海智無垠 大海の智垠り無し
赫々吾醫祖 赫々たり吾が醫祖
光輝照萬春 光輝は萬春を照す
壬寅冬日 東海 坪井信道拝題

西方に偉人あり。白髪白きこと銀ようだ。片眼は天下を睨み、片言、鬼神を驚かす。仁はどこまでも高く、智はどこまでも深い。高名響き渡るわが医祖、その光の輝きは永遠の春を照らす。天保13年(1842)冬日 東海の坪井信道謹んで題する。

【参考】
 緒方富雄氏による『日本におけるヒポクラテス賛美』(昭和46年)には、この坪井信道賛ヒポクラテス像と類似する作品が二点紹介されている。一点は武田薬品工業株式会社蔵とあるヒポクラテス画像(無款)である。

ヒポクラテス像 無款 (武田薬品工業株式会社藏)

 この作品の黒く塗られた細長い長方形の部分は、赤外線写真によってHIPPOCRATES.(約16㎝×1.6㎝)という文字が下に書かれていることが赤外線調査によって判明している。この黒く塗られた部分は坪井信道賛ヒポクラテス像にあるものとほぼ同寸である。この下に同じようにHIPPOCRATES.の文字が隠れているかは不明であるが、この二つの作品は、同じ人物が描いたか、別の人物がどちらかを模写したものであることは間違いないであろう。

宇田川榕菴賛ヒポクラテス像 (早稲田大学図書館蔵)

坪井信道賛ヒポクラテス像と類似するもう一点は、早稲田大学図書館蔵とある宇田川榕菴によるヒポクラテス像である。私は、坪井信道賛ヒポクラテス像と武田薬品工業株式会社蔵ヒポクラテス像は、宇田川榕菴によって描かれたヒポクラテス像である可能性はあるのではないかと思う。以下、参考までに『日本におけるヒポクラテス賛美』にある坪井信道賛ヒポクラテス像を転載する。

坪井信道賛 大原国延画 ヒポクラテス像
坪井信道賛 石川大浪画 ヒポクラテス像
坪井信道賛ヒポクラテス像(無款)

《ヒポクラテスの誓い》

 ヒポクラテスは紀元前 5世紀にエーゲ海 のコス島に生まれたギリシャの医師で、それまでの呪術的医療と異なり、健康・病気 を自然の現象と考え、科学に基づく医学の基礎を作ったことで「医学の祖」と称されている。彼の弟子たちによって編纂された「ヒポクラテス全集」には当時の最高峰であるギリシャ医学の姿が書き残されている。その中で、医師の職業倫理について書かれた宣誓文が「ヒポクラテスの誓い」であり、世界中の西洋医学教育において現代に至るまで語り継がれている。

『ヒポクラテスと医の倫理』(江本秀斗・東京都医師会前理事)より引用

ヒポクラテスの誓い(原文・小川鼎三訳)

 医神アポロン、アスクレピオス、ヒギエイア、パナケイアおよびすべての男神と女神に誓う、私の能力と判断にしたがってこの誓いと約束を守ることを。この術を私に教えた人をわが親のごとく敬い、わが財を分かって、その必要あるとき助ける。その子孫を私自身の兄弟のごとくみて、彼らが学ぶことを欲すれば報酬なしにこの術を教える。そして書きものや講義その他あらゆる方法で私の持つ医術の知識をわが息子、わが師の息子、また医の規則にもとずき約束と誓いで結ばれている弟子どもに分かち与え、それ以外の誰にも与えない。

 私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。

 頼まれても死に導くような薬を与えない。それを覚らせることもしない。同様に婦人を流産に導く道具を与えない。

 純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う。

 結石を切りだすことは神かけてしない。それを業とするものに委せる。

 いかなる患家を訪れるときもそれはただ病者を利益するためであり、あらゆる勝手な戯れや堕落の行いを避ける。女と男、自由人と奴隷のちがいを考慮しない。

 医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る。

 この誓いを守りつづける限り、私は、いつも医術の実施を楽しみつつ生きてすべての人から尊敬されるであろう。もしこの誓いを破るならばその反対の運命をたまわりたい。

The Oath of Hippocrates
I swear by Apollo the Physician, and Aesculapius, and Health, and All-heal, and all the gods and goddesses, that, according to my ability and judgment, I will keep this oath and this stipulation-to reckon him who taught me this art equally dear to me as my parents, to share my substance with him, and relieve his necessities if required; to look upon his offspring in the same footing as my own brothers, and to teach them this art, if they shall wish to learn it, without fee or stipulation; and that by precept, lecture, and every other mode of instruction, I will impart a knowledge of the art to my own sons, and those of my teachers, and to disciples bound by a stipulation and oath according to the law of medicine, but to none others. I will follow that system of regiment which, according to my ability and judgment, I consider for the benefit of my patients, and abstain from whatever is deleterious and mischievous. I will give no deadly medicine to anyone if asked, nor suggest any such counsel ; and in like manner I will not give to a woman a pessary to produce abortion. With purity and with holiness I will pass my life and practice my art. I will not cut persons laboring under the stone, but will leave this to be done by men who are practitioners of this work. Into whatever houses I enter, I will go into them for the benefit of the sick, and will abstain from every voluntary act of mischief and corruption of females or males, of freemen and slaves. Whatever, in connection with my professional practice, or not in connection with it, I see or hear, in the life of men, which ought not to be spoken of abroad, I will not divulge, as reckoning that all such should be kept secret. While I continue to keep this oath unviolated, may it be granted to me to enjoy life and the practice of the art, respected by all men, in all times ! But should I trespass and violate this oath, may the reverse be my lot!

金沢医科大学HPより引用