村上華岳
Murakami Kagaku

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草人様
啓上
実ハ大兄を始め皆様に御心配を
かけているやうです。
草人様宛にも実ハ二三枚ハガキを
かいております。
(紙継)
平生から日時数字に疎き男、
これで何日寝てるのやら、又あなたに
かいた未投函のハガキもイツ頃書い
たのやら、われながら判然しません。
またそれ程に病気ヅレしています。
(以上第一通)
 知友諸氏への手紙ハガキナド
 十余通も〈もっと沢山〉かいております。
 いつれも御見舞の返事や、出さぬ
 ならぬ要件ばかりのですが、
 皆褥(フトン)の下ニ籠つてあります。
 未投函のまゝに。
 かけばいろいろ実情をかきたい。又
 御見舞之委細返事をしたいが、併しかへつて
 余計御心配すルことにもなります。
 殊に病中困惑、文字ハ見苦しく
 思ふから、筆かはこびません。思ひがつくせませんです。
 御注察を乞ひます。
(以上第二通)
○まだ今の処、些少の無野心、病気も
 悪化せしめるので御注解を願ひ度いと思ひます。
 由来コノ病気ハ根治之適薬ナルモノ
 無之、特ニ私のやうなのは服薬ニ
 アドレナリン、後此も急性となりて
 功力稀薄です。
 夜中突然発作の時などは
 実ニ危倹(ママ)、深夜でも戸を開き
 庭前にとび下りることあり。
 到底貴兄之御想像も及ひません。
 前来夜中暮か危倹を重ねています。
(以上第三通)
 会期(?)あるときか如きは
 死線を超へると申して
 大兄にだケにでも よろしく
 お察しを願つておきます。
 向寒候事冬期を如何に
 越すべきか。
  用心に用慎を肝要としるす
 一そのこと常夏之国へかし
     でも行けばどうか
 とも思つておりますが。
 注射はこれで三十三本(だいたい殆どセンソクの注射でナそ)
 体力保持と抵抗之
 注射ばかりです。
(以上第四通)
かくの如く病気ニまいり了つております。
この病気は既ニ十幾年来
つづけ、今度のやうなのは(元来が弱体を酷使)
からだを無理にむりをつづけたからです。
病気の方からすれば、当然
予定之行動です。私も
(或ハモツト過激なのか来るか)
早晩当然劇越的に来るものと
予期(オカシイか)しておりました。
 いろいろ病気のこと実情を申
 上て、反つて御心配かけるバカリですから
 これくらひにて失礼とします。
世の中にはモツトモツト病下ニ苦しんでいる
            人があるでしよう。
(以上第五通)
七月か八月末か
夏頃から一進一退どれたケ
寝ているやら茫然としています。
    ● 小生の信仰からすれば、すべてが
予定の行動です。
    ● 皆さんに(病気のために)いろいろ迷惑をかケており
   すまぬことゝ思つております。
永々手紙をかきました。以上ハ
   再三ニ御尋ねの返事と致します。
 尚々   廣□様に
  御あひの時ハ大体の私之様子を
  御伝を願へませぬか、
  何卒よろしく。
其他の人々へもよろしく。ただし余りに
人々に心配かけぬやう、又見舞品なとを頂いたり
すると大変心苦しく、何卒其辺取捨判然、御留意を願上ます。
(以上第六通)

2.長尾新吾宛書簡 封筒付き

 村上華岳 10
 村上華岳 11
 村上華岳 12
 村上華岳 13

謹啓
先般ハ佳果多量ニ
いたゝき難有奉鳴謝候。
相不変、拙生荒怠、申
訳なき次第に存じます。
   ○
実ハ竹栄君ニ常々
申居候事有之、一度是非
参堂致度候と存しながら
カレコレと愚図愚図致居ます。
いつれも拙作ニ関することに御座候。
いつれ拝芝の上にて種々と
悃願、貴意を得度
    存じおります。
    花□村生
       岳拝
八月二十一日
長尾様
  御座右

3.長尾新吾宛書簡

 村上華岳 14
 村上華岳 9

□□□ 四月二十四日
 毎々勝手申訳無之
 荒怠御許容願上度候。
 只今上田君御本宅
 例之画展後、種々と
 述上度きものも有之候へとも
 身辺多事ニ取乱し
 省略御ゆるし願上ます。
 先は懈怠御侘ひまで。
        村上拝
長尾様 老台
     座右

4.長尾新吾宛書簡

 村上華岳 15
 村上華岳 16
 村上華岳 17

拝復
平生御無沙汰に打
過しおります。
申訳ありません。
来春には一度拝芝
仕りたくと考へおります。
歳晩多事、加へて少し
持疾ゼイゼイと申居、不悪
御容しを願上ます。
いつれ拝唔の隙に
万々御詫申上ます。
  早々
    跏萼
     拝
長尾様侍史
 十二月二十五日

5.長尾新吾宛書簡

 村上華岳 18
 村上華岳 19
 村上華岳 20

石仏頭一基
右之品、先般林氏をくりし
御懇情ニより御恵存を
忝し拝領致し候。
重々鳴謝仕候。
    華岳拝
長尾雅契
  老台侍史

作家名
村上華岳 むらかみ かがく
作品名
田中草人宛書簡他全5通一括(巻子1 掛け軸4)
作品詳細

1.田中草人宛書簡
巻子, 紙本水墨 緞子裂 ○箱
本紙寸法161.5 ×19.3
全体寸法24.3×208㎝,

2.長尾新吾宛書簡
掛け軸, 紙本水墨 緞子裂 象牙軸 合箱 二重箱
本紙寸法26.3 ×17
全体寸法38.6×105㎝,

3.長尾新吾宛書簡 封筒付き
掛け軸, 紙本水墨 緞子裂 象牙軸 合箱 二重箱
本紙寸法52.7 ×18.5
全体寸法67.4×114㎝,

4.長尾新吾宛書簡
掛け軸, 紙本水墨 緞子裂 象牙軸 合箱 二重箱
本紙寸法46.5 ×19.2
全体寸法57.2×117.2㎝,

5.長尾新吾宛書簡
掛け軸, 紙本水墨 金襴緞子裂 象牙軸 合箱 二重箱
本紙寸法19.5 ×17.5
全体寸法37.4×127.5㎝,

註釈

田中草人は美術雑誌『藝美』の発行人。田中草人宛書簡は最晩年の書簡と思われる。書簡中「小生の信仰からすれば、すべてが予定の行動です。」の文言は興味深い。長尾新吾は、武庫郡魚崎町(現在の神戸市)の人であるが詳細は不明。