【秋水原文】
自留心色画図間
鉄鍱鉛題聊解記
莫道皺麻全師法
雲煙直写眼中山
天保癸卯六月九日、
早起掃除書堂、挿花焚香
洗硯、写此景、并系旧作一首。
是日小雨異晴、皺快人思秋水
【秋水訓読】
自ら心の色を画図の間に留む。
鉄鍱鉛題、聊さか解し記す。
道うなかれ、皺麻は師法を全うすと。
雲煙、直ちに写す眼中の山
天保癸卯(1843)六月九日、
早く起き書堂を掃除し、花を挿して香を焚き、
硯を洗い、此の景を写す、并びに旧作一首を系かぐ。
是の日小雨、晴と異り皺人の思いを快くす。秋水
【秋水訳文】
自らの心で感じた色彩を画面に留める。
鉄鍱鉛題(地獄でも何でも?)、わかっていることを記す。
披麻皴(水墨の技法)は師の法にのっとらねばならないなどと言わないでくれ。
わたしの筆勢は、直接に目で見たままの山水を写すのだ。
天保癸卯(1843)六月九日、
早く起きて書堂を掃除し、花を挿して香を焚き、
硯を洗い、この景色を写し、合わせて旧作の漢詩を添えた。
この日小雨がふっていて、晴天とは異り、山ひだも心地よいものだろう。秋水
【藤城原文】
雲翠堆中草木香
山容水態似吾郷
過役琴酒娯終歳
村醸多灰也未妨
藤城山人題於
世猷近日所製縑幅
【藤城訓読】
雲翠堆中、草木香り
山容水態、吾が郷に似る。
過役琴酒、終歳を娯しむ。
村醸、多くの灰もまた妨げず。
藤城山人、世猷の近日製する所の縑幅に題す。
【藤城訳文】
雲はみどりにうずたかく、その中に草木が香る。
山のすがた、水の様子はわが故郷に似ている。
役をつとめればあとは琴と酒で、一年を楽しむ。
村の地酒には灰がまじっているがそれもまたよしとしよう。
藤城山人、弟の秋水(字は世猷)が近日制作した絹本の絵に題した。
まずまず美品。