梁川星巌
Yanagawa Seigan

 梁川星巌 1
 梁川星巌 2
 梁川星巌 3
作家名
梁川星巌
やながわ せいがん
作品名
星巌詩稿零本
作品詳細
掛け軸 紙本水墨 紙裂 巌谷一六箱
日下部鳴鶴並びに巌谷一六、紙中極め。
本紙寸法31×22.1
全体寸法41.6(胴巾)×90.3p
註釈

【原文】
覇越功成一舸輕
英雄他自惜媌娙
五湖煙水春融治
不比胥濤巻怒聲

【訓読】
覇越功成って一舸輕し
英雄他また自ら媌娙を惜しむ
五湖の煙水春融治
比せず胥濤の怒聲を巻くに

【訳文】
茫蠡が越王を覇たらしめる功が成り名遂げて後、一舸に美人を乗せて、五湖の煙水に浮かび、長閑な春を楽しんだのは、子胥が濤を揚げて怒聲を卷いたのに比すべくもない。

【原文】
夢裏雲路渺茫
此心誰與細商量
人生只合田園老
十具烏牛百本桑

【訓読】
夢裏の雲路渺茫たり
此の心誰と與にか細に商量せん
人生只田園に老ゆべし
十具の烏百本の桑

【訳文】
夢に見た青雲の上に登る路は遙にして容易に昇れそうにない。此の心は誰と共に細かに相謀らうか。人生は只正に四十頭の黒牛、百本の桑を以て生活の資として、田園に老ゆべきだ。

〈添え書き部分〉

日下部鳴鶴(朱墨部分)

【原文】
余多見星巌先生稿本、或作隷一々皆拠古
名人之体、先生用意之厚、与今人臨紙濫写者自異
選此、雖零残之余、亦可重也。日下東作識

【語釈】
零残―断簡零墨(墨跡の断片)のこと。

【訓読】
余、多く星巌先生の稿本を見る。或は隷を作(な)す。
一々皆、古(いにしえ)の名人の体に拠る。先生の用意の厚きこと、
今人の紙に臨みて濫(みだ)りに写す者とは自(おのずか)ら異なる。
これを選ぶは、零残の余りと雖(いえど)も、亦(また)重(おも)んずべきなり。
日下東作識

【訳文】
私は、星巌先生の原稿を多く見てきた。隷書で書いたものすらある。
それらはみな、昔の名人の字体を根拠としている。先生が書字において充分に準備をされたことは、現在の人が紙を前にして無造作に書き散らすこととは全く異なっているのである。この一枚の原稿を取り上げたのは、断簡零墨といえども、貴重なものであるからだ。
日下東作識

筆者不明(如客?)

【原文】
右星巌先生草本叶先生晩年留意
臨池此可以見物、明治壬寅之夏、如客記

【語釈】
臨池…習字。手習いのこと。後漢の草書の大家、張芝が毎日習字したところ家の前の池の水が真っ黒になった故事にちなむ。
叶先生…未詳。岐阜在住の人か。
壬寅…明治35年(1902)

【訓読】
右、星巌先生の草本、叶先生晩年留意す。
臨池、これもって見物すべし、明治壬亥の夏、如客記す。

【訳文】
右は星巌先生の草稿で、叶先生が晩年に留意されたものだ。
書字にあたっては、これをよく見ておくこと。明治壬亥の夏、如客記す。

巌谷一六

【原文】
星巌先生壮歳稿本、其書未脱菱湖習気、与晩年
所作奚啻霄壌亦可以知其変化在工夫何如耳
 癸卯九月 巌谷修識

【語釈】
菱湖…幕末明治の書家、巻菱湖(1777〜1843)。米庵・菘翁と共に「幕末の三筆」の一人。門弟一万人をこえたという。
習気…しゅうき。身についた習わし。
霄壌…しょうじょう。天と地。転じて大きな隔たりがあること。
癸卯…明治36年(1903)。

【訓読】
星巌先生壮歳の稿本、その書未(いま)だ菱湖の習気を脱せず、
晩年の所作と奚(なんぞ)啻(ただ)霄壌のみならんや。
亦(また)以(もって)其(その)変化の工夫何如(いかん)に在(あ)るを知るべきのみ。
 癸卯九月 巌谷修識

【訳文】
これは星巌先生が壮年の時の草稿本で、その書体は、まだ巻菱湖流の癖が抜けきっていない。先生晩年の作品とは、まったく異なるものであるというだけではなく、また、その書体の変化の工夫がどこにあるかを知るべきなのである。
 癸卯九月 巌谷修識