日本人の持つ美意識の結晶ともいうべき掛け軸。日本人の創造した優れた美術の多くは、掛け軸という表現様式に託され、さらにその輝きをまして、今を生きる私たちに感動と喜びを与えてくれます。また、それは、故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知ることでもあります。長良川画廊は、近世、近代書画専門の画廊として、日本の貴重な文化遺産である掛け軸を中心に、選りすぐりの作品をご紹介をするとともに、鑑定、評価、買い取りなどのご相談にもお答えしております。

《わたしたちが失いつつあるもの》

日本人に受け継がれてきた『学びのこころ』

日本に最初の中央集権国家が生まれる飛鳥・奈良時代以降、外来文化である仏教と儒教は、日本の学問の中心となり、日本人の精神的規範となって日本の文化に深く浸透していきます。また、一方には、遙か神々の時代より、自然の営みに寄り添い、自然に溶け込んで生きる、日本人固有の自然観、死生観があります。日本の豊かで多彩な優れた文芸はそうした歴史的背景、精神風土の下で育まれてきました。また、そこには、学芸を尊び、「学びのこころ」を大切にした古き日本人の姿があります。

『学びのこころ』にふれる今月の一点

中川一政の書 『學 ばせを』
中川一政

《學ぶことはつねにあり席にのぞんで文台とわれと間髪をいれず思ふことすみやかにいひいでてまとふ念なし》


松尾芭蕉の弟子、服部土芳の『三冊子』に次のような一文があります。《師のいはく、学ぶことはつねにあり。席に臨んで、文台と我と間に髪をいれず。おもふ事速にいひ出て爰(ここ)に至つて迷ふ念なし。文台引下ろせば即反古なりときびしく示さるる詞もあり。或時は大木倒すごとし。鍔本にきりこむ心得、西瓜きるごとし。梨子くふ口つき、三十六句みなやり句などといろいろにせめられ侍るも、みな巧者の私意を思ひ破らせんの詞なり。》芥川龍之介は自著『芭蕉雑記』のなかでこの一文を引用し、「この芭蕉の言葉の気ぐみは殆ど剣術でも教へるやうである。到底俳諧を遊戯にした世捨人などの言葉ではない」と記しています。連歌を簡素化した俳諧連歌である「連句」は、江戸時代の庶民文化に広く浸透し、各地で句会が開かれます。俳諧宗匠である芭蕉はこの「座の文学」と呼ばれる連句に強い執着を持って門弟を指導しました。服部土芳が書き残したこの芭蕉の言葉は、句会に参加する弟子や町衆に、その厳しい心構えを示すものですが、それはまた、芭蕉自らへの反問であり、蕉風俳諧の根本精神を表すものでした。
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