山岡鉄舟
Yamaoka Tesshu

 山岡鉄舟 1
 山岡鉄舟 2
 山岡鉄舟 3 山岡鉄舟 4
作家名
山岡鉄舟やまおか てっしゅう
作品名
詩書
作品詳細
掛け軸 紙本水墨 緞子裂 合箱
本紙寸法33.2×124.3
全体寸法45.5(胴幅)×190p
註釈

【原文】(題荷峯雲隠図 明 夏原吉)
万仭荷峰挿漢青
当年嘉遯若為情
田園無限幽間趣
車馬不聞来往声
半榻松風雲臥冷
一渓羅月釣糸軽
只今聖主求賢急
林下安能老釣耕

【訓読】(荷峯に雲の隠る図に題す 明の夏原吉)
万仭の荷峰、漢青を挿す。
当年の嘉遯は情をなすがごとし。
田園は無限にして幽間の趣あり。
車馬、来往の声を聞かず。
半榻の松風、雲臥して冷やかなり。
一渓の羅月、釣糸、軽し。
只今、聖主、賢を求めること急なり。
林下、安(いずく)んぞ能(よく)老いて釣耕せん。

【語釈】
万仭―非常に高いこと。
荷峰―山の名。山西省の荷葉坪山のことか。
漢青―古代中国の青色の顔料。
当年―この年。
嘉遯―『易経』のことば。遯(のが)れることを嘉(よ)くせり。
幽間―もの静かでおくゆかしいこと。
半榻―長椅子の半分ほどの寝台。
雲臥―世を逃れて山中に隠れること。

【訳文】(荷峯に雲の隠れる図に題した 明の夏原吉)
万仭の高さの荷峰は青々としており、
この年、よく世の中を逃れ得たことは、心の向くところに従ったのである。
田園の光景は無限に広がって、物静かで奥ゆかしいおもむきがあり、
車馬の音や往来する人の声などは聞こえない。
寝台は松風に吹かれ、雲の中に涼しく寝る。
月に照らされて渓流に釣り糸を垂れる。
ところが今、皇帝陛下は、賢者を急いでお求めになっているという。
どうしてこのまま林の中で落ち着いて晴耕独釣の生活を続けられようか。

【鑑賞】
 明の夏原吉(1366―1430)は靖難の変の時、建文帝の側につき、変の終息後は、勝利した永楽帝側に捕らえられた。当然処刑にも値するところを、原吉の才能をみこんだ帝により助命され、新帝に出仕することになった。鉄舟は、二君に仕えた原吉の姿に、幕臣から明治政府の官吏に転身した自身の生き方を重ね合わせていたものと思われる。
 ところで、日本ではあまりなじみのない靖難の変であるが、これに取材したのが、幸田露伴の『運命』という小説である。そこでは、原吉のように新帝に仕えるもの、あくまでも旧帝に忠を尽くして死を選ぶものなど、様々な生き方が描かれている。
 この小説が発表されたのは大正時代であるから、それ以前に亡くなっている鉄舟が読むことはできない。むしろ、鉄舟のこの作品の存在によって、靖難の変をめぐる人間模様が、明治維新という体制の大転換を経験した人々、とりわけ新官吏に転身した旧幕臣の間で、すでに注目されるところとなっていたと推測され、そうした思潮が露伴の創作意欲を刺激して『運命』が誕生したのではないかと思われるのである。